2019年5月のリリースから、「投げて沈めているだけで釣れる!」と、高い釣獲力でバスアングラーに支持されているのが『沈み蟲』。
いわゆるイモグラブ系のワームだが、最初から『沈み蟲』として生み出されたのではなく、さまざまな過程を辿って結果『沈み蟲』となった、ISSEIルアーの中でも一風変わった製品である。
村上晴彦氏にその経緯についてインタビューを敢行してみた。
【もともとは中国向け!?】
『沈み蟲』が登場する数年前のこと。
「長い付き合いの中国の釣り業界の関係者さんから『中国のバスの釣り堀(※)用のワームを作ってほしい』という依頼があったんです。釣り堀って、ビギナーさんも多く行くだろうから、誰でもイージーに釣れるワームがいいだろうと造ったのが『沈み蟲』の原型、現地では『イージースティック』という名でリリースされたワームでした」
※)中国ではブラックバスは食用として重宝されており養殖も盛ん。その観点からバスの釣り掘りもかなりの数がある。
形は現在の『沈み蟲』そのままだという。
「造るときに気をつけたのは使い手が違和感を覚えないこと。海外でも人が違和感を覚えない形って一緒なんじゃないかと思ったんですよ」
ボディデザインは涙滴に近い楕円形。これならすんなり受け入れられるだろうと村上氏は考えた。
そのままではなんの変哲もないイモグラブになってしまうので、ボディの左右に3対の脚を付属。
水流を受けるとピリピリと不規則に動いて魚を誘うよう仕向けた。
こうして沈めてよし、巻いてよしの『イージースティック』は中国でリリースされた。
村上氏の読みどおり、中国のアングラーに違和感なく受け入れられ、高い釣獲力で中国内の釣り堀で大人気となった。
それならすぐに日本へ持ち込んでバスシーンに投入しそうなものだが、そうはならなかった。
「当時は全然愛着が湧いてなかったんですよ。ぶっちゃけて言うと、脚がなければどこにでもあるイモグラブとそう変わらないじゃないですか。そのへんがなんかひっかかってたのかな?」
村上氏はそう述懐する。
推測ではあるが、村上氏にストップをかけていたのは、彼自身のポリシーによるものだったのではないだろうか?
村上氏が創作活動に取り掛かるときは「楽しさ」「面白さ」「奇想天外」「ひらめき」といった感情、感覚に突き動かされたときだ。
モノ造りの根底にあるものと、「頼まれて造った」『イージースティック』は対極に位置しているといっていい。
真相はもはや本人にすらわからないが、ここからしばしの間『イージースティック』の存在は村上氏の記憶の片隅へと追いやられることとなった。
【国内発売理由は海で使うため】
愛着が湧かなかったワームが逆輸入されることになったのは2018年。
とはいえ、その理由は意外なものだった。
「バス釣りで使うつもりはまったくなくて、海で根魚に使うのが目的だったんです」
そうしてリリースされたのが『海太郎 根魚蟲』(現在は生産終了製品)である。
『根魚玉』と組み合わせると、リフト&フォールさせれば太い尾を持つ生物が尾を振り回すような動きで波動を生み、タダ巻きすれば太いボディが水を押しながらも脚がピリピリと動いて微波動を生む。
これらが根魚に効果的だろうと考えたのだ。
案の定、『根魚蟲』は各種の根魚に抜群の効果を発揮。
「釣れるワーム」としてだんだん認知度が上がっていくと、バス釣りにも使う人が増えていった。
折しも当時はイモグラブ系ワームでの釣りが再注目されていたときだったのだ。
「『根魚蟲』でバスがよく釣れる。バス用が欲しい」
ユーザーからこんな要望があった以上、メーカーとして応える必要がある! と、まったく乗り気ではなかった村上氏の尻が叩かれることに。
こうしてバスに使いやすい『根魚蟲』にするためのアレンジがスタートした。
【『沈み蟲』誕生!】
バスでの使用を前提にマテリアルを高比重のものに変え、ワームの硬軟、塩の含有量も調整。これによりノーシンカーでもよく飛び、沈下速度もバスが好むものへと最適化。『沈み蟲』として新たに日の目を見ることとなった。
その後の『沈み蟲』の人気、釣獲力は誰もが知るところである。
「今は愛着がありますよ(笑)。国内向けにリリースするまでにしっかり向き合いましたしね。そういうのは愛着が湧いてくる。でも一番はお客さんが欲しがってくれたこと、使って釣って喜んでくれることが大きかった」
村上氏の釣りの楽しみには「みんなで楽しむ」ことも含まれている。
『沈み蟲』。このワームが生まれたキッカケはユーザーの支持や評価によるものなのだ。