
ISSEIのトップウォーターペンシルベイト『G.C.ワカペン90』。
村上晴彦が手がけたルアーである。
どんなストーリーを持って生まれたのだろうか。
ここではそのepisodeに迫ってみよう。
【脳内のイメージを具現化】
『G.C.ワカペン90』のモチーフはその名にあるように ”ワカサギ” なのだが、村上の脳内ではそのままの姿ではなかった。
ワカサギはワカサギでも、抱卵したワカサギだった。

「抱卵したワカサギの膨れたボディ、それによってややのけぞるシルエットをイメージして造形したのがワカペン」
実際は抱卵したワカサギが水面直下を泳ぐことはない。
それをペンシルベイトにする。
このあたりは村上晴彦らしい”ヒラメキ”だが、根底には長年向き合っている、ルアー造りにおける、おもしろみと造形美への追求心がうかがえる。
【コンセプトはあの銘作ペンシルベイト】
イメージを具現化するべく『G.C.ワカペン90』の制作がスタート。
しかし完全にゼロからのスタートではなく、ベースになったルアーがあった。
『ハスペン92』である。

これは常吉時代に村上がデザインした、”ハス”をモチーフにしたトップウォーターペンシルベイト。
村上ファンなら周知であろう ”銘作” のひとつだ。
静止状態では垂直に近い85度の姿勢で浮かび、アクションを入れると水を切り裂いてダイブしてキレのあるターンと強く水を押す。
口に設けられた小さなカップは水を受けて飛沫を上げる。
これは小魚が水面の餌をついばむときに出る「摂食音」のイメージだという。
また、ハイピッチのドッグウォークアクションも得意とし、水面に細かな水飛沫を立てて泳ぎ、流れの中でもしっかりと強い存在感を生んでバスを誘い食わせる。
どんなペンシルベイトなら誰でも簡単に釣れるのか?
それを形にしたものだった。
ではなぜそんなルアーが生み出せるのか?
これは村上の”経験”も大きく寄与している。
実は村上のペンシルベイト造りは『ハスペン92』を生み出すよりもかなり前から続いてきたものだったのだ。
まだプロアングラーとして活動するよりも前、ペンシルベイトでの釣りに没頭した期間があったという。
当時市販されていたルアーも使ってみたが、理想の動きができるものがなかったのでバルサを削って造った自作ペンシルベイトで釣れる姿勢やアクション、そして自分の理想の動きはどんなものなのか?
実践しながらその経験を積み重ねていたのだ。
奇抜な発想とヒラメキで周囲から ”天才” と呼ばれることも多いが、その根底には積み重ねた確かな経験があるのだ。
【それは偶然か必然か】
村上のペンシルベイト造りの経験を詰め込んだ ”釣れるアクション” を持つ『ハスペン90』と同じコンセプトを持たせながらも ”抱卵したワカサギのデザイン” を両立させるべく、造り進めていくと村上自身も思ってもいない偶然に続けて遭遇した。
「垂直姿勢にしたいペンシルベイトなら重心移動はいらないけど、ワカペンはボディに気室を設けてシンカー1個が前後する重心移動にしてみた」

このふっと思いついたことを試したところ、ワカペンのボディ形状とマッチしたのか遊泳姿勢が秀逸なバランスだったという。
そしてアクションさせると内部のシンカーが前後に移動することにより、アクションごとに重心が変わってルアーの天地がなくなったという。
ドッグウォークさせると背中を上に泳ぐこともあれば、横を向いたり、腹を上に向けて泳ぐこともある。
まるで魚がヒラを打つようなアクションが生まれた。
当然、静止状態の角度も毎回若干変わる。
なのにアングラーは一定のリズムでアクションを入れればその不規則なアクションを生み出せる。
「どれもただの偶然」
村上は簡単にそう言ってのけるが果たしてそうだろうか?
釣り、ルアー造りそのどちらも長年積み重ねた経験がヒラメキとともに創作物へ反映された結果ではないだろうか。
こうしてデザインもアクションも村上テイストを満載して『G.C.ワカペン90』が誕生。
2016年春、ISSEI立ち上げから4年目のことだった。
