茨城県の南部に広がる霞ヶ浦。
ここを舞台に2024年9月に開催されたのが「陸王 U-30」。
これはメーカーが推薦する30歳以下のバスアングラーが集結し、オカッパリで培ったテクニックを競いながら栄冠を目指し戦うというもの。
メーカーの看板を背負い、自己のプライドも賭けて挑まなければならないこの熾烈な戦いに、ISSEIフィールドスタッフ・佐藤リョーキが挑み、見事優勝を勝ち奪った。
どのような準備と心構えをして、当日はどう戦ったのか?
インタビューを交え紹介しよう。
【悔しい初出場から2年】
佐藤リョーキ(以下:佐藤)が「陸王 U-30」に出場するのは2回目。初回は2022年だった。
「このときは5匹のリミットメイクができたものの4位だったんです。すごく悔しかったですね。でも同世代のアングラーと真剣に戦えて、とてもいい刺激をもらいましたし、勉強にもなりました。これは次回も出場したい! そう考えていました」
翌2023年にも「陸王 U-30」は開催されたが、この年は仕事の都合でどうしても日程を調整できず断念。
2024年の参戦は念願かなってのものだった。
「今回は9名出場で、そのうち8名は関東、中部、関西勢でした。中国、四国勢はいないし、九州は僕1人だけ。でも絶対に勝ちたいし、優勝の栄冠を九州へ持ち帰りたいとも思いました。そのためにできることは最大限やると決めました」
霞ヶ浦にもっとも遠いエリアからたった1人での参戦。
不安は大きかった反面、優勝への意識は初回時とは比べものにならないほど高かった。
「現在の年齢(2024年時点で26歳)を考えるとチャンスは残り少ないし、2023年に出場を断念せざる得なかったように、来年も出場できる保証はないんです」
しかも今大会からルールが変わり、優勝すれば2025年開催の「陸王」本戦へ進むことができる。
佐藤に出場と優勝を強く意識させたのはこの部分にもあった。
「優勝すれば一発で本戦に行けるんです。そこではトッププロの方々と戦うことができる。その権利もどうしても欲しかったんです」
目指すは優勝、そして「陸王」本戦出場。
佐藤は来たるべき日に向けて準備をはじめた。
「出場を決めてから会社にも無理を聞いてもらいました。5日も連休をくださいとお願いして」(苦笑)
移動、プラクティス、大会本番、帰福までを含めるとどうしても5日は必要だったのだ。
そのほかにも荷を送る、交通手段の段取りなど、遠方ゆえトラブルが起こると大会どころではなくなってしまう。
念入りに準備を進めたという。
あとはどう戦うか? だ。
【柳川クリークでのシミュレーション】
本来なら戦いの舞台である霞ヶ浦へ釣行したいが、九州から関東へ通うことはさまざまな面で難しい。
「霞ヶ浦での釣りは2年前の陸王 U-30出場のときしかないんですが、そのときは『スパテラ』と『ダニー』でよく釣ったんです。逆にいえばそのイメージしかないんです(苦笑)。だから柳川クリーク(※)の似たシチュエーションの場所で『スパテラ』と『ダニー』を軸に釣りを構築して霞ヶ浦へ乗り込もうと考えました」
※)福岡県柳川市にあるクリーク群のこと。地元でもバスフィールドとして人気が高い。
柳川クリークを「仮想霞ヶ浦」として練習場所に設定し、大会ギリギリまで時間を見つけては通った。
メインの釣り方をどうするか、フォローを入れるならどういうリグ、ワームを投入するべきかなど、シミュレーションしながら、できること、考えつくことはトコトン試していった。
こうして戦いを進めていく感触をつかみつつ、タックルも霞ヶ浦で戦いやすいセッティングに調整。万全の準備を整えて佐藤は決戦の地へと赴いた。
そこで待っていたのは「アウェイ」そして「バス釣り」の厳しさだった。
【打ち砕かれたイメージ】
現地入りしてすぐさまプラクティスに入った。
広大な霞ヶ浦を回るには実質2日半では時間がなさすぎる。
しかも土地勘も情報もない。
2022年の経験だけが頼りだった。
佐藤はとにかく自分の目でフィールドを見て状況を確かめ、この日までに柳川で構築してきた攻略法が通用するかどうか、動けるだけ動いてもがくだけもがくしかないとプラクティスをはじめた。
「柳川でつかんだ攻略イメージはすぐに打ち砕かれたんですよ(苦笑)。『スパテラ』『ダニー』のほかに『沈み蟲』なんかも試しましたが、初日から3日目のお昼までで4匹しかバスを釣ることができなかったんです。しかも再現性はないし、サイズもさほど大きくはない。初日は体調不良もあってメンタルも崩れそうでしたね」
現場で知ることなったが、霞ヶ浦本湖は佐藤が来る以前に台風の影響で周辺の水田からの水の流入などもあり、コンディションがかなり悪い状態だったという。
2日目に体調こそ戻ったが、不安な思いはそのままでプラクティスは最終日を迎えた。
「あと1日……」
早朝からスタート。過ぎていく時間、のしかかるプレッシャーのなか、厳しい状況、残暑どころか酷暑の霞ヶ浦が佐藤の前に立ちはだかる。
気力と体力がどんどん削られていく。
明確なビジョンは依然見えぬままついに午後を迎えてしまった。
打つ手を見い出せない歯痒さと焦り。
そんな複雑な感情と戦いながら佐藤が立ち寄ったのは通称「北水路」と呼ばれる場所。
ここで「リリーパッド」(※2)を発見。
※2)水草が水面を敷き詰めるように繁茂ポイントのこと。
周囲の水深は1mあるなしと浅かったが、その際ギリギリに『スパテラ』のネコリグを投じて小刻みにシェイクすると1投目に40cmアップのバスがヒットした。
その後も小ぶりではなるが、パット際のボトムシェイクでヒットが続く。
「パット群の奥からバスが誘いにつられて出てきて食ってくるという感じでしたね」
ここに来て初めての再現性のあるヒットに気持ちも昂る。
しかしミスキャストして、パットの隙間にリグが入って、フックが根に掛かって根ごとパットを持ち上げてしまうと一瞬でバスが散ってしまい、バイトが一切なくなってしまった。
同時に1投ごと、丁寧な釣りをすれば数釣りができると佐藤は確信。
そしてこのときある出来事にも遭遇した。
「近くの水路とつながっているパイプから水の流入がはじまって人工のインレットができたんです。その周囲でバスがよく釣れるようになりました。その流入は僕が釣りをする間、つまり大会のリミットタイムまでに2回あったので、大会当日も同じなら2回チャンスがあるなと」
パット際攻めと人工インレット狙い…佐藤は決断した。
「ほかの選手も来るかも知れないし、一般のアングラーさんもいらっしゃるだろうから、狭い範囲の釣りになるけど、この場所から移動せず丁寧な釣りでじっくり釣ってリミットメイク、そして魚を入れ替えながらウエイトアップを目指そうと決意しました。同時にせっかく霞ヶ浦に来たんだからここでの釣りをもっと楽しまないと! とも思ったんです」
考えてみればアウェイすぎる霞ヶ浦。
場所の特徴やヒットしやすいタイミングもわかっていないのにラン&ガンするのは佐藤にとって時間のロスでしかない。
それなら釣れる場所、釣れるイメージが持てる中できっちり釣りを組み立ててやり切るほうがいいと判断したのだ。
「いい緊張感というか、心地よいプレッシャーはありましたが、不安がなくなったので、3日目の夜はめっちゃご飯食べましたね(笑)。よく寝ることもできたので気持ちよく戦いに臨むことができました」
気持ちをひとつに定めた佐藤氏は「陸王 U-30」本番へと挑んだ。