赤松健には「道具論」がある。
「自分にとって魚を釣る道具は ”物体の存在が消える” 、 ”持っているだけで高揚感を与えてくれる”ものなんです」
この2つが彼のモノ造りを支えている。
今記事ではその深部に迫った。

”物体の存在が消える”
これは道具の性能面を表すという。
「魚釣りに限らず、優秀で性能がいい道具は、使っているうちに、身体と意識になじみ、自分の手となり足となり、物体の存在感が消えると考えています」
たとえば、カチカチの革靴でマラソンをしたとしよう。
“痛くて重い”、“靴”や“足”に意識が引っ張られて走ることに集中できなくなるはずだ。
一方、長距離を走るために作られたランニングシューズを履くとどうだろうか?
シューズの存在が次第に身体へ溶け込むようになじんで、その存在は意識の中からも消え、走ること、息遣いなど自分の行動に集中できるようになる。
「ロッドにおいても ”自分のやりたい釣り” にぴたりと合っていれば、使い込むうちに、身体と意識に溶け込んでなじみ、魚釣りに集中できるという考え方なんです」
赤松健がプロデュースする【Lycoris】はその製作基準が「オカッパリ、デカバス、捕獲」×「釣り方」の組み合わせ。
「『オカッパリ、デカバス、捕獲』その一連のアプローチに集中するために、必要な性能やテイストを付与し、不必要なぜい肉を落として【Lycoris】の各モデルは完成へと向かいます」
これはロッド単体を持った時ではなく、リールをセットしてガイドにラインを通し、釣り場でルアーをキャスト、魚とファイトなど実際に使って一連の流れをこなした時に発揮されることを最優先にしているという。
その最たる例が最初にリリースした『LRC-78H』だろう。
「『LRC-78H』は『オカッパリ、デカバス、捕獲』×『AKチャターの遠投』を具現化するために、現場でテストを繰り返して最終的に出た答えが『厚巻きで硬いけど曲がる調子、コース取りしやすい長さ』でした」
先端までカーボン量が多く厚巻きのブランクスなので、単体をパッと持つと重く感じてしまうロッドだが、巻き抵抗の強い『AKチャター』を遥か沖へ遠投して巻いた時に、この厚巻きのカーボンがリトリーブを補助し、オートマチックに釣れる演出をしてくれる。

そしていつの間にか感じていたはずの「重さ」は身体と意識に溶け込んでなじんで感じなくなる。
「使っていると自然と手に覚える違和感が消えてくるんです。おのずとリトリーブコースやレンジ、スピード、エリアなどに集中できるようになりました」

”持つだけで高揚感を与えてくれる”
これは道具のデザイン、ビジュアルのことを指す。
「道具は実用性能面だけではなく、所持するだけで高揚感を得られることも大事にしています」
華美な装飾やコスメを施すのではなく、機能を主軸としながらも高揚感を高める、”機能美”を強く意識したデザインだという。
「デカバスを狙いに行く時、ロッドは道具であり相棒なので、ビジュアルもワクワクするような相棒であって欲しいんです」
機能とすぐれたデザインを両立させるのはとても困難なことだが、赤松氏は妥協することなくとことんこだわって【Lycoris】のデザインを決めている。

“こだわりは工程にも及ぶ”
赤松氏のモノ造りはその工程も独特の方法をとっている。
「自分自身に明確なイメージがあるものの、ロッド職人さんに同じイメージを共有してもらうことは難しいんです。だからひたすらにトライ&エラーを繰り返すことが一番の解決策としてテストを繰り返しています」
試作ロッドが出来上がるには想像以上に時間を要する。
一般的とされる方法で職人に頼むと、ブランク作成に1カ月、ガイドやグリップ組み上げに2カ月、合計3カ月を要すこともあるそうだ。
これを短縮するために、赤松氏はブランクのみを職人に作ってもらい、ガイドやグリップ組み上げは自身で行うことにした。
自分で組めば、ブランクが届いてから2時間程度で実釣テストが可能なので、トライ&エラーのサイクルを早められるだけでなく、ガイドセッティングの微調整やグリップ形状の造形も作り込めるのだ。

「これが【Lycoris】を理想のロッドの育てる過程です。究極にせっかちなだけともいえますけどね(笑)」
”忘れてはいけないこと”
どんなものを造り出すにしても、どんなにこだわってもその中に絶対に忘れてはならないことがあるという。
それは「共感」の2文字。
「自分はたまたま人より屈強なわけでも、体格が大柄でも小柄な訳でもありません。きっと自分が感動するような道具は、多くの人、デカバスを狙うオカッパリアングラーに刺さるはずだと信じて製作に取り組んでいます」
赤松氏の経験とこだわりと想いが生み出す【Lycoris】。
手にすること、使うことでそのこだわりを共感してほしい。
