ダイワでは『ハートランド』シリーズ、ISSEIでは『碧』シリーズや『ネコシャフト』シリーズなどこれまで数々の銘作ロッドをプロダクトし、現在もさまざまなロッドをプロダクト真っ最中の村上氏。
ファンからすれば「もはやいつものこと」だが、ちょっと考えてみてほしい。
ゼロからモノを作り上げる「プロダクト」。
これは誰もが簡単にできることではない。
しかも村上氏は20年以上その最前線に立ち続けている。
どういったきっかけでプロダクトへの意識が芽生えたのだろうか?
そしてその意識にはこれまで変化があったのだろうか?
その起源と現在、そして未来に迫った。
【”あるものでなんとかする” 精神の芽生え】
少年時代の村上氏は釣具に囲まれた環境だった。
自宅の納屋に父親が釣具を保管していて、使っているもの、使っていないもの、破損した釣具のパーツ、ウキや小物などがたくさん置かれていたという。
当時から使われていないパーツを用いてはいろいろなものを作って遊んでいたという。
現在も続く「あるものでなんとかする」という精神はこのころには芽生えていたようだ。
その象徴的なエピソードがある。
ある日、父親と神戸の沖堤防へアイナメを釣りに行くことになったのだが問題が発生。
「明日、自分が使う竿がない」
村上氏は納屋の中をごそごそ。
もう使われていない並継ぎ竿のパーツを見つけ、3本つなぎ合わせて1本の竿を作った。
調子も色もガイドの大きさもバラバラ。
つなげられるものをつなぎ合わせただけの竿。
その竿ではせっかく掛かった良型のアイナメをハリス切れで逃すという事態に見舞われた。
「そんな竿使うてるからや」(笑)
父親にはそう言って笑われた。
「その竿って胴は軟らかいけど、穂先から胴の手前まではすごく硬かったんですよ。当時、細ハリスのほうが魚の食いがいいのを知っていたので使っていたんですが、竿のバランスが悪かったのでやり取りの負荷に細いハリスじゃ耐えられなかったんです」
あるものでなんとかしてもちゃんと使えるものでないと結果が伴わないと知る機会になったのかもしれない。
その後の村上氏は「あるものでちゃんと使えるもの」を作るようになっていった。
【積み重ねられた経験と独特の感性の行先】
それから時が経ち、村上氏がブラックバスへ興味を持った(はじめてのバスを釣るまでのエピソードはこちら!)。
「生きた金魚をエサにした仕掛けを投げ込めば釣れるはず」
そう思い立ったが吉日。
「明日行こう!」
そう決めて村上氏は準備をはじめたが、思いついた釣り方に合った竿がなかった。
「細いハリスのほうがエサの金魚がナチュラルに動くのでバスが食ってきやすいだろうと考えたんですが、同時に以前のアイナメ釣りでのハリス切れが脳裏をよぎりました」
細い穂先の竿が必要! というわけで造ることにしたが、自宅の納屋には使えそうなものが見当たらない。
村上氏が向かったのは釣具店。
そこで目を付けたのは竿ではなく、手作り竿に使わていた1mほどのグラスソリッド(当時は400円程度だったとか)。
「これええやん!」
このグラスソリッドに自宅に転がっている竿のガイド、グリップ、リールシートを取り付けた。
クローズドフェイスリールを使うので、トリガーが必要と針金を曲げて加工したものをセット。
グラスソリッドは全体的に軟らかく、穂先から胴までスムーズに曲がるおかげで細いハリスを問題なっく使うことができ、思ったとおりにブラックバスを釣ることができた。
このころにはなにをどう組み合わせればどういう竿になるのか、どこを調整していけばその形になるのか、そしてその竿はどういう釣りで遊べそうなのか、そういったことがイメージできて、ある程度(身の周りのものを使うので)形にできるようになっていた。
「明日使う竿がないから造ろう」
「こんな竿ならおもしろく釣りができるだろう」
そう発想して行動。
それを繰り返す。
これが着実に経験として積み重なっていった。
同時に「おもしろさ」「楽しさ」を追求する、村上氏の感性を磨き上げた。
そうしてその経験と感性が周りからは「独自」「有益」「必要」と判断され、気づけばメーカーのロッドプロダクト手がけるようになっていた。
【流れを区切っているだけ】
こうして一般に向けて販売されるロッドプロダクトを手がけるようになって20年以上経過したわけだが、当初と現在でなにか変わったことはあるのだろうか?
答えはNO。
「こういうロッドがあったら楽しい釣りができる」
昔も今もこの発想だという。
違うといえば、それまでは身の周りのものを集めて造っていたのが、メーカーが持つ素材や技術をふんだんに用いられる環境になったので、ほかにはないロッド、おもしろいロッドが造れるようになったことだという。
「ただし、その時代で最大限できること(素材や技術)で僕がイメージするロッドを造ってもらっているので、僕の感覚としては “今回できるのはここまでね” と区切られたものが形になってリリースされているという感じなんです」
毎年のように村上プロダクトの新作ロッドが登場しているのは、そのときの村上晴彦が求めたものをその時点で現存する素材や技術で具現化しているというわけ。
今後も素材と技術は進化、発展していくだろうし、村上氏のイメージは膨らみ続ける。
村上ロッドプロダクトには「終わり」という文字はないようだ。