「僕が入社した時点のISSEIって、現在のような規模じゃなかったから、周囲にも心配されました。でも迷いはなかったですね」
こうして赤松氏のISSEIプロスタッフとしての生活がはじまった。それまで趣味半分、仕事半分だった釣りが本業となったのだ。
実釣ロケをこなす、製品にするルアーを試作する、それをテストするために釣りへ行く。それまで時間を見つけてやっていたことに時間をかけて専念できるようになった。オフもしっかりとれるようになり、自分の釣りにも向き合えるように。
「現在もですが、夢中で１日があっという間に終わる生活に変わりました。同時に村上さんと一緒に働けるようになって、釣りでもモノ造りでも大切な『表現』をもっと深く学べるようにもなりましたね」
たとえばモノ造りではこんなエピソードがある。
薄く長いテールを持ったワームにバスがよく反応してくれるという確信があった赤松氏は、薄いテールのワームを造ってテストし、よく釣れることもわかったので、製品化に向けるべく、試作品を村上氏に見せてみた。
「釣れるやろうけど、このままじゃダメ。お客さんに『釣れそう！』とか『おもしろい！』と思ってもらえるものでないと」
そう言われ、簡単には製品化へと進めさせてもらえなかった。
どうしたら自分もユーザーも納得いくものにできるのか？ あれこれ試行錯誤していると、村上氏が「サカナサカナ」という分かりやすい名前と、２匹の魚が連なったワームデザインを考案。そしてテストを繰り返して『サカナサカナ』が誕生した。
名前そのものにインパクトがありながらシンプルで覚えやすく、デザインもその名を体現しているので一目で記憶に刻まれる。
「僕があれこれ考えてもまとめ切れないでいたのに、村上さんはいとも簡単におもしろい名前とデザインを生み出されたんです。思考の死角を突かれたなと脱帽でしたし、もっと深く表現を学ばないといけないし、モノ造りももっと突き詰めて向き合わないといけないなと改めて感じました」
課題は山積み。だが、それらをひとつひとつ乗り越えていくことが楽しくて仕方ないと赤松氏は語る。
こうして製品造りにも深く携わるようになると、「造り手・赤松健」にもさまざまな意見が寄せられるようになってきたという。
「お客様から『AKチャターで自己新記録が釣れたんですよ！』と言ってもらえたんです。人の釣りのターニングポイントに関われるものを造ることができたんだと感動しました。ほかにも『寒くて釣れなかったけど、リコリスを振っているだけですごく楽しかったです』と言ってもらえました。釣りもモノ造りももっと共感を得られるように精進しないといけないですね」
赤松氏の釣り、モノ造りはまだまだ途上段階。師である村上氏の背中を追って、ひとつひとつを楽しみながらもひたむきに情熱を持って進んでいくだろう。
今回で「Episode of Ken Akamatsu」は終了となりますが、赤松氏の創作活動や釣りへの考え方など、随時「赤松健」カテゴリでご紹介していきます。ご期待ください！
